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はじまらない物語

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毎日つづく、いつもの通勤電車の中で、彼はついに「出会ってしまった」。偶然を必然に変えてしまう力、誰もが持っている勘違い思い込みのパワー。すなわちそれが、恋でした。とさ。

小竹向原の彼女


月金毎朝おんなじ電車に乗ったら
二両目二番目おんなじ扉で乗ったら
小竹向原で彼女と合流
いつからだったんだろう

月金毎朝おんなじ電車にいるのは
案外僕らの他には誰もいないさ
ちゃんと確かめてはいないが多分
気のせいじゃないだろう

ダイヤ改正のお知らせは僕らの最初の障害だった

月金毎朝おんなじ時間を守れる
相当僕らの何かは似ているはずだよ
似た者同士の相性なんか
考えちゃったりするね

月金毎朝おんなじ時間に乗るのは
遅刻が嫌いか或いはぎりぎりなのか
または他の理由があるのか
考えちゃったりしないか

月金毎朝おんなじ車両にいるけど
たったの一度も視線を合わせていない
女性専用車両なんかをある日
使いはじめないように

ダイヤの乱れのアナウンス彼女も心配してたらいいな

月金毎朝おんなじ電車に乗ったら
二両目二番目おんなじ扉で乗ったら
小竹向原で彼女と合流
いつまでつづくんだろう

にきび


いつもの電車に乗る日々の
楽しみと言えば最近は
ポジション争いくらいかな

好みや拘りは皆違う
通勤電車の扉脇
譲れない場所があるんだよ

僕とあの子は秘かに張り合っていて
勝った方から必ず一瞥くれあってるんだ
例えば左鼻の下に出来たにきび
僕の他に誰が気付くだろうか

毎日毎日のこと故
大きな違いはもとより
小さな違いがよく分かる

太ったか痩せたかなどより
今朝の機嫌の良し悪しや
体調の良し悪しの方が

僕とあの子は確かに知り合っていて
年も名前も知らねど一目置き合ってるんだ
例えば左鼻の下にできたにきび
今朝になってやっときれいになったね
例えば左眉の色や長さ太さ
昨日よりも薄い僕の好みだ

一日のうちの三十分を
共有している僕らは
恋人以上かも知れない

例えば左鼻の下の剃り残しに
あの子よりも先に気付く人はいない
例えば左鼻の下に出来たにきび
僕の他に誰が気付くだろうか

ねがお


新たな朝は夢の始まり
あなたと過ごす束の間の夢
寝ぼけた顔も見せられないの
なんて君は思わない

あああられもない君の寝顔
こんな所でなく僕にだけみせて

秘めているから時の行くまま
膨らむばかり広がるばかり
高まる胸も悟らせたいの
なんて君は思わない

あああられもあない君の寝顔
駅に着く度に君は目を覚ます

冬の電車の過ぎた暖房
程良く揺れる程良いノイズ
子守歌なら僕に任せて
なんて君に伝えたい

あああられもない君の寝顔
あまりさらさずに僕にだけ見せて

帰途


住んでる所と勤めている所がかわらなければ
帰り道筋は行く道の反対当り前だけれど
それならばいつか僕らは家に帰る途中で会える筈

だけどだけど未だ会えず 約束の仕方も分からない

毎日毎晩帰宅電車をかえてさがしてみるんだ
十日サイクルで一両一両スライドしてみる
そうすればいつか僕らは 偶然を越えられる筈だし

だけどだけど未だ会えず 約束の仕方も分からない

木曜と金曜会えない朝があると気がついたんだ
水曜と木曜違う部屋に帰るのありそうなことだね
それでもいい誰かのもとで過ごす夜があろうと構わない

せめてせめて一度でいい帰り道をともにしてみたい
だけどだけど未だ会えず約束の仕方が分からない

リハーサル


断言してみせよう
僕は君の人生の邪魔はしない
損得で言うならば
君が損をすることは決してない
携帯も不携帯

なんて言葉を切り出せたら
せめて一度でも話せたら僕らは始まるのに

なんなら宣言してみようか
僕は君の便利屋にはならないが
損得で言わせれば
僕で損をすることは決してない
大器は晩成中

なんて言葉を切り出せたら
せめて一度でも話せたら僕らは始まるのに
君の名前を知っていたら
呼びかける訓練も出来て僕らは始まるのに

本番はあるのかな
一人僕はリハーサルで上達中
当日の段取りと
君の返す台詞まで考えたが
警戒は無警戒

せめて名前を知っていたら
呼びかける訓練も出来て僕らは始まるのに
君に名前を尋ねる場面
只の一度で決められたら今にも始まるのに

はじまらない物語


一般常識から言って
僕がやろうとしていることは
いわゆるなんぱではなかろうか
小中高大学校で僕が学んだ全てのことは
自分は人見知りの意気地なし
それなのにそれなのに
このままでいられない

どうしたら僕たちは始まるのだろうか
ひと雨ごとに季節は変わる
もしかして僕たちは始まっているのかな
季節の変わり目のようにさりげなく

だいたい大人というものは
あらゆる結果を想定する
決して外れたりしないようにって
一体全体どうやって
君に切り込んだら良いのやら
いつもの窓辺で考える
考えているうちに下車駅がやってくる

どうしたら僕たちは始まるのだろうか
ひと雨ごとに季節は変わる
もしかして僕たちは始まっているのかな
季節の変わり目のようにさりげなく

通勤電車で会うだけの
君の声どころか笑顔さえ
知らない僕は何も知らない
いきなり寝顔をほめたって
気味の悪い男になるでしょう
言えない僕は何も言えない
飾り気のない君の指見つめすぎて行く

どうしたら僕たちは始まるのだろうか
ひと雨ごとに季節は変わる
もしかして僕たちは始まっているのかな
季節の変わり目のようにさりげなく

連休


もう会うこともないのかな
何も言わずに前触れもなく
君は僕から去るように

長い連休にいるのかな
そう言えばあの日の手提げには
旅行雑誌があったっけ

枕木が刻む時計の音が
僕を追い立てていく
いつからか僕ら違うレールに
乗ってしまったのかな

もう会うこともないのかな
いつもの電車に君がいなくて
今日も昨日も諦めた

枕木が刻む時計の音と
ともに今日も進むよ
君なしの日々が始まりなのか
終わりなのかは決めず

もう会うこともないのかと
二週間の後君が抱えた
土産袋に涙した

怪しいものではありません


私怪しい者ではありません
それは証明しようがありません
これがどれほど美しき恋心として
伝わりましょうか無理ですか

電車が揺れる度あのこの肩が触れるから
私の腕は最高機能の体温計になる

まんざらでもないんじゃないか
だってこれ完全に昨日と同じ立ち位置
違うのはあのこの肩の露出度だけ

車窓にうかぶ目が私を見てる気がすれば
鏡に映る恋人同士を体感しようもの

まんざらでもないんじゃないか
だってこれ完全に昨日と同じ立ち位置
違うのはあのこの襟のかたちだけ

私怪しい者ではありません
それは証明しようがありません
これがどれほど美しき恋心として
伝わりましょうか無理ですか

乗り換え客が降りた後のほっとした空気
あのこが今朝も乗り込んで来てはその空間を埋める

まんざらでもないんじゃないか
だってこれ完全に昨日と同じ立ち位置
違うのはあのこの胸の高さだけ

名乗れない


君のことを知りたいのと同様
僕のことを知ってもらいたい
しかししかししかし
筋で言えば名刺などが有効
大人同士正しいお作法
しかししかししかし

名乗れない 名乗れない
折角の名前なのに
名乗れない 名乗れない
だから始まらない

僕は見た目こんな程度なのは
君も少しご存知でしょうが
しかししかししかし
見た目よりも百歩奥の情報
名前をキーにネットで検索
可能時代故に

名乗れない 名乗れない
ユニークの名前ゆえに
名乗れない 名乗れない
だから始まらない

せめて僕がスズキイチロウだったら
こんなことで困りはしないんだ
たぶんたぶんたぶん

名乗れない 名乗れない
折角の名前なのに
名乗れない 名乗れない
だから始まらない

日曜看過


週休二日って誰が決めたのさ
通勤のあの時間しか
僕らにはチャンスがない

確かに土曜の午後起きて
洗濯物を片付けて
あと一日ゆっくり出来るっていいね

電話のしようもないし
待ち伏せしようもないし
手紙は書き飽きたけど
手渡しそびれっぱなし

働きすぎたら倒れてしまうね
平日の五日間だけ
頑張れば実るのなら

確かに土曜も日曜も
君を思い続けたら
昔話のように倒れてしまう

喧嘩のしようもないし
議論のしようもないし
思いは粉を吹くほど
ひとりあたためっぱなし

あとでふたりで振り返る時のため
日曜日は本でも読んで
夢ばかり見ていたことにしよう

テスト


確かめるにはこれこそがチャンス
僕は毎日君に見とれてる
どれほど間抜けな寝顔ばかりでも
通勤電車の日々の歓びよ

今僕はテスト中
美人は三日で飽きるのか
本当かそれは本当なのか

ずっとみていたいずっとみていたい
このまま電車よ走り続けよ
ずっとみていたいずっとみていたい
或いは電車よ永遠に停まれ

三日と言えば七十二時間
僕は毎朝君と三十分
計算すれば三日分まで
百四十四日もかかるのか

今僕はテスト中
美人は三日で飽きるのか
三日って実は長い気がする

ずっとみていたいずっとみていたい
このまま電車よ走り続けよ
ずっとみていたいずっとみていたい
或いは 電車よ永遠に停まれ

今僕はテスト中
美人は三日で飽きるのか
半年が過ぎた今日もテスト中

ずっとみていたいずっとみていたい
このまま電車よ走り続けよ
ずっとみていたいずっとみていたい
或いは 電車よ永遠に停まれ

好敵手


ライバルあらわる
池袋駅のどさくさ
つかの間僕らは互いを確かめるのに

ライバルあらわる
やっとこさ出来た隙間に
ずかずかするなり
ジャンプを読みふけるとは

やってくれるじゃないかサラリーマン
いんちきロックが耳からこぼれてる

ライバルあらわる
ページをめくったついでに
あのこをみただろ
こっちはわかってるんだぜ

老婆でブロック 人任せなれど仕方ない
老婆のブロック しばらく降りないでいて

幼女でブロック 落ち着かないが仕方ない
母娘のブロック 終点までここにいて

やってくれるじゃないかサラリーマン
電話を持つ手をあのこにかざしてる

ライバルあらわる
ターミナル駅のどさくさ
なんとかするには
二人は近づくしかない

やってくれるじゃないかサラリーマン
混雑めかしてあのこと向かい合う

ライバルあらわる
ターミナル駅のどさくさ
なんとかするには
二人が近づくしかない

サイン


月金毎朝同じ時間の
同じ電車の同じ扉で
向かい合う僕と君なんて
一見完全他人だけど

仕事も割合順調加減で
概ね過不足なさそな感じの
そこそこの僕と君だから
一見クールに振る舞うけれど

さんざん意識してる
互いに気になる異性

サイン感じたらサイン
さり気なく返したい
サイン可能ならいつか
暗号化会議したいな

月金毎朝同じ時間の
同じ電車の同じ扉に
居合わせるだけの関係さ
言葉も会釈も無粋だよね

おはようの意味で月曜の君は
時間か或いは電車をかえたね
おはようの意味で火曜日の僕が
車両を換えて水曜を待つ

サイン感じたらサイン
さり気なく応えたい
サイン見逃せば最後
暗号化会議したいな

さんざん考えたね
お互い別々にね
それでも通じ合える
やっぱり何かあるね

サイン感じたらサイン
確実に応えてよ
サイン僕からの次の
暗号が届きますように

三度目の連休


もう会うこともないのかな
何も言わずに前触れもなく
君は僕から去るように

長い連休にいるのかな
そう言えばあの日の手提げには
旅行雑誌があったっけ

枕木が刻む時計の音が
僕を追い立てていく
いつからか僕ら違うレールに
乗ってしまったのかな

もう会うこともないのかな
いつもの電車に君がいなくて
今日も昨日も諦めた

枕木が刻む時計の音と
ともに今日も進むよ
君なしの日々が始まりなのか
終わりなのかは決めず

もう会うこともないのかと
二週間の後君を見かけた
指輪の他は変わらない

Information

型番:PMCD-UM28
発売:2008年 01月
価格:¥1,047

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2008年01月22日より、ラブレコードにて販売中

2008年01月22日の言

 一体いつからだったんだろう。
 毎日つづく、いつもの通勤電車の中で、彼はついに「出会ってしまった」。
 偶然を必然に変えてしまう力、誰もが持っている勘違い思い込みのパワー。すなわちそれが、恋でした。とさ。
 ありや為也が綴ってみせる、電車内妄想恋物語の十四場面

ご挨拶

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